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HEAVEN 社会の窓から見たニッポン

2010年5月22日—7月19日 広島市現代美術館
http://www.hcmca.cf.city.hiroshima.jp/

展覧会解説ブログ・サイトにようこそ

この展覧会は僕がいままで20年あまりにわたって、手を替え品を替え取材してきたニッポンという国を包括的に見直す、はじめての企画です。















本展は広島市現代美術館という空間を借りた、いわば一冊の立体的な書籍としてつくられました。広い会場を一冊の本として、各部屋をひとつひとつの章として、ひとつの壁を1ページとして。

展示される作品には、それぞれ数百字から千字以上になるテキストが添えられ、しかも写真や立体制作物を鑑賞するのと同じ位置で読めるよう、通常の展覧会の感覚からすれば非常識なほど大きな文字組みで、壁のいたるところに貼りつけられています。

立ち止まり、座り込んで、雑誌や単行本のページをめくるように、壁を読んでいただけたらと願っています。このサイトは、全部で6つの章からなる『HEAVEN』という名の分厚い本を読破するための、最初の読書案内です。

展覧会場はすべて撮影OK!

入口の壁全面に貼りつけられた、こんなメッセージから展覧会は始まります:

僕はジャーナリストだ。アーティストじゃない。
ジャーナリストの仕事とは、最前線にいつづけることだ。そして戦争の最前線が大統領執務室ではなく泥にまみれた大地にあるように、アートの最前線は美術館や美術大学ではなく、天才とクズと、真実とハッタリがからみあうストリートにある。
ほんとうに新しいなにかに出会ったとき、人はすぐさまそれを美しいとか、優れているとか評価できはしない。最高なのか最低なのか判断できないけれど、こころの内側を逆撫でされたような、いても立ってもいられない気持ちにさせられる、なにか。評論家が司令部で戦況を読み解く人間だとしたら、ジャーナリストは泥まみれになりながら、そんな「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」に突っ込んでいく一兵卒なのだろう。戦場で兵士が命を落とすように、そこでは勘違いしたジャーナリストが仕事生命を危険にさらす。でも解釈を許さない生のリアリティは、最前線にしかありえない。そして日本の最前線=ストリートはつねに発情しているのだし、発情する日本のストリートは「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」だらけだ。
この展覧会の主役は彼ら、名もないストリートの作り手たちだ。文化的なメディアからはいっさい黙殺されつづけてきた、路傍の天才たちだ。自分たちはアートを作ってるなんて、まったく思ってない彼らのクリエイティヴィティの純度が、いまや美術館を飾るアーティストの「作品」よりもはるかに、僕らの眼とこころに突き刺さってくるのは、どういうことなのだろう。アートじゃないはずのものが、はるかにアーティスティックに見えてしまうのは、なぜなんだろう。
僕の写真、僕の本はそんな彼らを記録し、後の世に伝える道具に過ぎない。これからお目にかける写真がどう撮られたかではなく、なにが写っているかを見ていただけたら幸いである。
これは発情する最前線からの緊急報なのだから。

第1室 遊行するこころ:ここには日本らしい美しい風景もなければ、外国人観光客を黙らせるワビサビの空間もない。むしろ俗悪・軽薄と罵られてもやむを得ないような、ときには地元の人間でさえ存在を忘れてしまいたいスポットばかりが詰め込まれている。でも、このスッピンの乱れ顔こそが、いまの日本なのだ。そしてその素顔は、確かに美人じゃないけれど、見ようによってはちょっと可愛かったりする。


週刊SPA!で連載を始めたのが1993年。それからいままで、いまでも継続している日本各地をめぐる取材旅行の成果が、ここには展示されています。




珍日本紀行 ROADSIDE JAPAN 1997年に木村伊兵衛賞を受賞した際の展覧会のために制作されたプリント・シリーズ。さらに1998年に水戸芸術館で開かれた『くるくる珍日本紀行』のために制作された、回転寿司を使った作品も多数展示。

珍日本紀行ハイビジョン動画版 2004年から2年間にわたって民放BSで深夜に放映された、珍日本の特選物件をめぐり、あたかも世界遺産を取材するようにハイビジョンで美しく撮影された珍日本紀行動画版。全26物件、放映時間約2時間半!



ニッポン国世界村 2005年、ANA機内誌『翼の王国』に連載された「日本のなかの外国」を撮影したシリーズ。麻薬中毒者も酔っ払いもいないアムステルダム、ゴミひとつ落ちてない万里の長城・・オリジナルを模して作られた「複製の外国」に、究極のフェイクを見る企画でした。すべて手製の大型ピンホール・カメラで撮影された。



第2室 巣ごもりするこころ:新しい部屋に住むのは楽しい。新しい町で、新しい部屋で、新しい生活を始めること。それをおおごとでなく、ちょっと長い旅行のように考えられたら。たとえば知らない町に着いて、居心地のいいホテルを探すくらいの気持ちで、部屋を借りる。飽きたら次の部屋か、次の町に行けばいい。そんなふうにできたら、いろんなことがすごく楽になる。



1990年代はじめから取材開始、93年に出版された『TOKYO STYLE』を端緒として、いままでおそらく500件近い「狭くて居心地いい部屋」を撮影してきました。ここではそうやって見届けてきた「ふつうのくらし」が、さまざまなかたちで展示されています。



賃貸宇宙 2001年に筑摩書房から発売された『賃貸宇宙』は、それまでずっと見てきた「居心地いい生活空間とはなんだろう」という問いを、系統だって整理した作品集でした。ここではその際に撮影された若者たちの暮らしぶりが紹介されています。





UNIVERSE FOR RENT  もともと週刊アスキー誌のウェブ版のために制作された100部屋あまりのインテリア取材のシリーズを、『UNIVERSE FOR RENT』というインスタレーションに組み直した作品。IPIXという特殊な技術によって、静止画でありながら、マウス操作によって部屋の壁から壁、天井から床まで、あたかもその場に立ってぐるぐる視線を移動させるように見ていくことができる。



HAPPY VICTIMS  いまはなき流行通信誌で長期連載された『着倒れ方丈記』。ひとつのブランドを偏愛し、そのために生活を捧げる「幸せな犠牲者」たちを探し求めたシリーズ。





当世とりかえばや物語 PRINTS21誌で現在も連載中の、コスプレイヤーたちを取材する連載。おとくいの“コス”に身を包んでもらい、自分の部屋の中でポーズをとってもらう。それを普段着の姿と対照させることで、彼女たちの内なるリアリティを探るシリーズ。



ヘヤヌード かつて恵比寿にあったクラブみるくのフリーペーパーのために撮影された連載がもととなったシリーズ。クラブの常連やDJの部屋にお邪魔し、そのなかでヌードになってもらう企画。からだと部屋と、どちらがほんとうの彼であり、彼女であるのか、見ているうちにわからなくなってくる。



第3室 我が道をいくこころ:日本の果てから果てへの旅で出会った変人のうち、もっともクリエイティブというか、多産にしてオレサマ人生を疾走していたのは、なぜか圧倒的にじいさんなのだった。狂った(いい意味で)じいさんに、よくできたばあさんが陰から支えとなっているケースがあまりに多く、それは僕に幸せな人生というものを深く考え直させたものだった。






最初はサイゾー誌ウェブ版のために、そのあと『巡礼』という書籍にまとめられた、日本各地の「超老」を訪ね歩く旅。長い廊下の左右に、全部で29名の「我が道を行く老人たち」の生きざまが展開している。


第4室 かぶくこころ:身近にありすぎて、なくしてしまうまで気がつかないもの。ロジカルでなく、エモーショナルであるもの。尊敬するものではなく、抱きしめたくなるもの。グローバルではなく、ローカルなチカラ。かっこわるいことは、なんてかっこいいんだろう

日本のすみずみを巡り歩くうちに少しずつ見えてきた、日本ならではのデザイン感覚のすばらしさ。ラブホテルから暴走族までバラエティ豊で、しかしその底に流れる一貫した「美しさのありよう」を探ります。



ラブホテル 『Satellite of Love』として1997年に刊行された、消えゆく昭和の香りを漂わせるラブホテルのインテリア・デザインを記録したシリーズ。







イメクラ 究極のシミュレーション・アートとも言うべき「イメージクラブ」の空間を撮影して回ったシリーズ。





アメリカヤ かつて山梨県韮崎に存在した伝説的な食堂のインテリアと、とてつもない過剰装飾の愛車、さらに墓まで。

てっちゃん/よーかんちゃん 札幌と鶯谷と場所は違えど、同レベルの過剰装飾によって構成された、超絶の飲食空間。





広島太郎 37年前から広島市中心部にいる/ある、伝説のホームレス。これほど有名で、これほど市民にかわいがられ、しかもそこにいるのにだれも見ようとしない、透明な存在があろうか。それはそのまま、「いちばん近いところにあるものが、いちばん見えていない」という今回の展覧会のテーマにぴったり当てはまる。



等身大パネルと記念写真をどうぞ!




アートトラック 映画『トラック野郎』の時代から連綿と続く、トラックをみずからの顔と見立てて飾る、トラッカーたちを捉えたシリーズ。トラックのカリスマ・ペインターである関口工芸・関口操氏の傑作もあわせて取材展示。





お祭り仕様カスタムバイク・魅寿帝 かつて日本の週末を華麗に彩った、暴走族の改造単車。そのうちでも「田舎の暴走族」になるほど、その装飾は過激になっていった。本展覧会のために、かつてストリートを席巻したバイカーたちが制作してくれた、夢の改造単車。これは現代の和様バロックである。



見世物小屋絵看板 かつて日本の祭りには欠かせなかった見世物小屋。いまや絶滅の危機にある、その異形の芸能を支えた「絵看板」の素晴らしさを、どれほどの人間が認識しているだろうか。ここでは貴重な絵看板の数々を、公立美術館としておそらく初めて展示する。





第5室 歌い踊るこころ:きのうも、今夜も、明日の晩も、日本のすみずみの何万軒というスナックで、マイクを握りしめたオヤジや厚化粧のホステスが絶唱している。毎夜どれほどの回数、『津軽海峡・冬景色』や『つぐない』や『銀座の恋の物語』が唄われているのだろう。合唱が声を出すスポーツだとするならば、カラオケはスナックという閉ざされた空間で、つかのま共有される幻想を紡ぎ出す、魔法のポエトリー・リーディングだ。



レーザーカラオケ/カラオケ・ネイション この春、恵比寿の東京写真美術館に出品された「レーザーカラオケ」をめぐる展示。現今の通信カラオケとは比べものにならない高画質、濃い内容の画像世界を作りあげ、「3分間の短編映画」ともいえたレーザーカラオケ。いまはすべてが失われて、だれも救おうとしない、そのショートムーヴィの素晴らしさを、数百曲にのぼるコレクションでお送りする。マイクも用意されて、観覧者はソファに座ってこころゆくまで絶唱可能!



第6室 闇に向かうこころ:蔑まれ、疎まれることはあっても、敬意を払われることは決してなく、観光地図やガイドブックからも消し去られ、すでにほとんど忘却の彼方へと高速で遠ざかりつつある、秘宝館という哀れな存在。どんなに優れたインスタレーションがそこにあろうと、「アート」として認知されることはありえないまま、名もなきアーティストによる傑作がまたひとつ、消えていく。







精子宮 Sperm Palace  2001年、横浜トリエンナーレに出品され、大きな反響を呼んだ「鳥羽秘宝館・SF未来館」の再現展示。横浜の2倍以上のスペースを使って、とてつもないエロ・イマジネーション世界が展開しています。公立の現代美術館で「18歳未満入場禁」の展示が実現するのは、前代未聞ではないだろうか。









ミュージアムショップ:
本展覧会の詳細なカタログ、また関連著作やタオル、エコバッグなど、豊富なグッズが揃っていますが、そのほかに特筆すべきコレクションがふたつ、今回は用意されています。

刑務所良品 2007年に発表された『刑務所良品』の取材でお世話になった広島刑務所から、箪笥や室内雑貨まで、さまざまな特選グッズが直送され、特別販売コーナーになっています。「もっとも日本的なるデザイン」である刑務所製品のなかでも、家具などの製作においては定評ある広島刑務所の製品を、ぜひこの機会にお求めください。

公式TシャツTee Party  5月24日にオープンしたばかりの、ウェブによるオンデマンド・アーティストTシャツ販売サイト、『Tee Party』。すでに99アーティスト、684柄という、とてつもない数のTシャツがアップされていますが、その中で『HEAVEN』と題したブランドを作りました。全67種類! ラブホ家具から広島太郎から珍日本スポットまで、お好みのデザインを、お好みのサイズで着こなしてください!